近年、こころに起因する社会問題への注目が高まっています。
この問題は、不安やストレスのように個人の気分に深くかかわるものだけでなく、虐待やいじめのように小規模な人間関係にかかわるもの、さらには紛争や不寛容のように集団どうしの関係にかかわるものまで、さまざまなスケールで生じています。
ムーンショット目標9は、「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」することを掲げています。具体的には、科学技術を用いた「自分のこころをマネージメントするための技術」と「他者との円滑なコミュニケーションを支援する技術」の開発、およびこうした技術が社会的に広く受け入れられるための基盤づくりを、2050年に向けて目指しています。この未来像に向けて、私たちは「多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発」(通称:Jizai2050)に取り組んでいます。
「自在ホンヤク機」とは、社会のさまざまな場面で人々のコミュニケーションを支援するために私たちが開発を目指している技術・製品の総称です。とくに私たちは、こころの問題にアプローチするために、こころとからだの連関に着目します。脳や自律神経系の計測(神経科学)、体液のエクソソーム解析(分子生命科学)、知覚・認知・運動への介入(VR/AR、ロボット工学)などの成果を融合して、主に小規模集団でのコミュニケーションを支援すること、これが「自在ホンヤク機」の目標です。
「自在ホンヤク機」が実際に開発され、社会で広く使われるまでには、科学や技術にかかわる課題だけでなく、「私たちのコミュニケーションはどうあるべきか」といった倫理的・法的・社会的な課題(ethical, legal, and social issues: ELSI)にも取り組んでいく必要があります。真にこころ豊かで包摂的な社会の実現に向けて、私たちは、研究分野などの垣根を超えて一歩ずつ進んでまいります。