2026年3月13日、昭和医科大学 発達障害医療研究所にて、ミニシンポジウム「ASDの行動指標をめぐって——ADOS-2行動評価・生体指標・動物モデルのクロストーク」が開かれました。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断や研究において、行動評価は長く重要な役割を担ってきました。ADOS-2(自閉症診断観察スケジュール第2版)は、ASDの行動評価の国際的な標準手法です。しかし、その指標が何を捉えているのか、生体レベルの変化や動物モデルの知見とどのように接続しうるのかについては、十分に整理された共通理解があるとは言えません。ADOS-2が評価するASDの行動指標を出発点に、生体指標や動物モデルとのつながり、さらに評価の解釈や研究利用に伴う倫理的課題までを視野に入れながら、領域横断的な議論が交わされました。
冒頭には発達障害医療研究所に併設されたリハビリテーションセンターを見学するツアーが実施されました。そこでは、ASDやADHDの特性をもつ人を対象とした専門プログラムが日常的に運用されています。固定メンバー制のグループの中で、コミュニケーションや自己理解、対人関係のあり方を少しずつ調整していく場であり、外来診療だけでは捉えきれない行動が継続的に観察される環境でもあります。指標化されるべき行動とは、固定的で単一ものではなく、他者との関係の中でダイナミックに変化するものであるという意識が、その後の議論の前提として共有されたように思います。
前半のセッションでは、ADOS-2の基本概念と、臨床行動評価の実践的な基盤が確認されました。行動特性をどのように読み解くのかという原点に立ち返る話題に加え、クラスタリング解析を通してASDの異種性を捉えようとする試みも紹介されました。ひとつの診断カテゴリのなかにも多様なプロファイルがありうること、その見え方は評価軸の置き方によって変わりうることが、あらためて印象づけられました。
後半では、マウスやサルを用いた精神疾患・神経発達症モデル、生体シグナルとしてのエクソソーム動態の話題が並び、ASD特性をめぐる研究が、臨床観察だけでなく分子・生理・動物実験へと連続していることが示されました。さらに、感情認識AIサービスをめぐる欧州AI規制法の話題も加わり、指標を「測る」こと、「活用する」ことの社会的・倫理的な含意にも目が向けられました。
このミニシンポジウムで印象的だったのは、「行動指標」を固定的な答えとして扱うのではなく、異なるレベルの研究をつなぐ接点として捉え直そうとする姿勢でした。行動、生体、動物モデルという領域を跨ぐ議論からは、そのあいだをどう往復し、どこで協働しうるかが、今後の研究にとって重要なテーマであることが見えてきました。


